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コラム

外国人の所得の取扱い

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 ちょっと前は就職氷河期と言われ、圧迫面接やリストラが横行していた時代から一転、現在の就労者は売り手市場らしいです。大手企業ならいざ知らず、中小企業ともなれば昨今は、どこもかしこも慢性的な人手不足に見舞われているというのが現状です。そんな中、注目を浴びている労働力の担い手がAIです。AIに給与はいらないですからね。一時期、『将来、AIに仕事を奪われる』という記事が紙面に踊っているのをよく目にしましたが、そんな影に隠れてもう一つ、将来、日本の労働力の担い手として期待されているのが外国人。

 京都や大阪に仰山出没している方は殆どが観光客なのであまり関係ありませんが、就労ビザの緩和など国の方針として、外国人就労者を増加させていこうとしているのは確かなようです。

さて、今これをお読みの方にとって気になる論点はおそらく二つでしょう。

 ◆外国人就労者の方 :自分の所得税の課税方式が知りたい

 ◆外国人を雇用する方:雇った方の税金の仕組みを知りたい

今回は、そんなお悩みをまとめて解説していきます。

1.納税義務者の区分

 まず、一言に外国人と言っても所得税法上、納税義務者は居住者と非居住者に区分され、居住者は更に永住者と非永住者に区分されます。

 居住者:居住者とは、日本国内に住所、または現在まで引き続いて1年以上居所がある個人です。

(1)居住者

 必ずしも日本国籍を有している事が要件ではなく、

  (1)日本国籍を有しない

  (2)過去10年間で日本国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年未満

 上記2要件に合致する方を非永住者、それ以外を永住者と区分します。

 プロ野球選手で同一球団に少し長いこと居る助っ人外人選手などが非永住者としてイメージしやすいかもしれません。

(2)非居住者

 居住者の要件に該当しない方はここに区分されます。半年だけ出張で日本に来ている、イメージ的には就労ビザ1年未満の外国人などを指します。

2.区分毎の課税方式と租税条約

個人の国籍や住所等によって3つに区分される事は上述の通りです。所得税法上課税方式もこの3区分を基に取扱いが異なってきますので、本章ではその点を解説していきます。

なお、当該人の所属国と日本の間で『租税条約』が締結されている場合には、所得税法上の非居住者などの扱いに優先して租税条約条項が適用される事となるので、注意が必要です。

所得の内容、及びPEの有無による所得税法上の取り扱いと租税条約

(1)非永住者以外の居住者

 日本国籍を有していれば勿論、国籍に依らず居住期間が長い方は『あんたは日本人です。』と言わんばかりに国内外に問わず全ての所得について所得税法が適用され、課税がなされます。

(2)非永住者

  国内源泉所得及び、海外で発生した所得で国内へ送金されたものと、国内で支払いを受けるものが課税対象となります。

(3)非居住者

 国内源泉所得のみが課税対象となります。具体的には、日本の企業から支払いを受ける給与や対価・報酬、配当金や国内不動産から得る対価などが挙げられます。

永住者と非永住者は居住者、つまり日本に住んでいる人とみなされるので、概ね取り扱いは一般的な所得税の通り年末調整や、確定申告で完結する事となります。

ただし、非居住者の課税方式としては、収入時に源泉所得税を課す方式が採用されていて、課税方式・課税率、源泉後の取り扱いは後述のPE(恒久的施設)の有無などにより異なります。

3.PEって何?

(1)PEとは

 非居住者の所得の取り扱いの際に最も大きく関わってくるのが、PE=恒久的施設の有無です。

非居住者というのは住所があるけど、定住していないとみなされている方を指すもので、税務署としては申告漏れを恐れています。その為、非居住者の国内源泉所得は(租税条約に抵触しない限り)一定税率により源泉所得税を支払う側が差し引く方式が採用されています。要は収入した側から徴収困難であるならば、支払い側に支払い義務を課せば、とりっぱぐれは防止できる。サラリーマン・年金受給者と同様の方式ですね。

(2)PEの要件

PEは大きく3つ種類が挙げられています。(以下国税庁HPより要件を抜粋)

 (イ)支店・出張所、事業所、事務所、工場、倉庫業者の倉庫、鉱山、採石場など天然資源を採取する場所。

 (ロ)建設、据え付け、組立て等の建設作業等の為の役務の提供で一年を超えて行うもの。

 (ハ)非居住者等の為にその事業に関し契約を結ぶ権限のあるもので、常に権限を行使する者や在庫商品を保有しその出入庫管理を代理で行うもの、あるいは注文を受ける為の代理人等

 (イ)は収益の上がる不動産、(ロ)は長期の工事の請負った場合、(ハ)は物流倉庫の管理人などを想像してもらうとよいかもしれません。

 論旨として、非居住者というのは税務署からすれば、住所があってもそこに定住していないと見なされています。

 その為、所轄税務署というものも明確にしづらいのですが、PEというその人の所得に関わる重要な拠点がある場合には、そこを住所とみなそうというものです。

(3)PEの有無による取扱いの違い

 当然ですが、源泉税率は一定(大体10.21%〜20.42%)なのに対し、所得税は本来累進課税方式が採用されているので、所得の種類や多少により適正な税率・税額は異なってきます。

 PEがある場合、総合課税が選択されます。対して、PEがない場合には源泉分離課税方式と言って、源泉税率=適用税率として処理される事となり、適正税額の多少によらず、課税関係が完結します。

(4)上記を踏まえた具体例

 例えば租税条約のない国から来た非居住者がいたとします。所得は額面500万円、この方は来て間もなく上述の通り非居住者とみなされていて、20.42%の源泉所得税が差し引いて支給されます。

 ここでPEを持たない非居住者は500万円×20.42%=約100万円の税金が差し引かれたまま課税関係が完結し、これが適正税額となるのに対し、例えば国内に事務所を構えていてそこをPEとみなされた場合には、収入時に源泉徴収される点は変わらないものの、源泉税額が高額な場合には、事務所の所轄税務署長に対し確定申告を提出する事で源泉税の一部還付を受ける事が可能になるというわけです。

4.源泉徴収

 源泉徴収自体は居住者であっても所得の種類によりなされる課税方式の一つです。所得の源泉、給与なら雇用主、年金なら国が支払うべき所得から一定税率を予め徴収する制度で、一般的に適正税率に比して高額に設定されています。通例、給与所得者なら雇用主が年末調整、年金所得者なら必要に応じ確定申告を行う事で適正税額に再計算がなされ、結果過不足について還付、もしくは追加納付を行う事となる訳です。

 居住者であれば基本的に利子、配当、給与、退職、年金等のみ源泉徴収がなされ他の所得は自身で確定申告を行う事となりますが、非居住者は国内源泉所得の全てが源泉徴収の対象になる点で相違します。

5.タックスヘイヴンの需要と問題点

 近年、外国人就労者とともに取り沙汰されるのがタックスヘイヴン。直訳すると税金天国、ではなく、租税回避地とかそういう意味になりますが、その国内で税金がかからない国または極端に税率の安い国を指します。

 皆税金を払うのは嫌なのです。ただ、上述の通り、日本でもそして大概の国でも国内で発生した所得は課税をするのが原則というか当たり前の話。では、所得の源泉と自分の住所を日本じゃなくしてしまおうというのです。

 上述の通り、非居住者は原則として国内源泉所得についてのみ課税がなされるので、所得源泉が全て海外であれば日本で課税される事はありません。海外の税率が0か、極端に安い国から所得を得る事が出来れば理論上その人は税金を課されない、または極めて微小な納税に抑える事が可能となってしまいます。

 そもそも税率が安い国が存在するのが悪いといってしまえばそれまでですが、例え税率が同等であっても税金を公共サービスの対価とする観点からすれば、本来納税すべき納税先と異なる国へ納付する事は二国間に不整合をもたらすことになり、また本来納付すべき税金を納めない人が発生する事は、巡り巡って他の納税者の負担を増加させる一因にもなり得る話です。

 海外源泉所得者を取り締まろうとする動きはこういったタックスヘイヴンを利用する人だけでなく、グローバル化に伴う所得源泉の多様化により、所得源泉の把握が煩雑になっている事も踏まえる事で、居住者区分の違いによる乱暴とも思える課税方式の違いに対しても一定の理解に繋がろうかと思います。

6.まとめ

今回はこれで以上です。

AIに給与は発生しませんが、ボランティアでもない限り、外国人でも当然、働いてもらえば給与、取引すれば対価が発生します。今後、老人大国に既になりつつある日本の労働力の担い手として、外国人就労者に白羽の矢を立てた政府の政策を見てもこういった事象・事例は増加の一途を辿ることは明らかです。

額面の取り扱いは日本人と何ら変わりないものの、支払の段では常に源泉所得税が発生しうるものという事を頭に置いておく必要があります。

 (2020年1月記載)

(注)当ホームページに記載しております情報の正確性については万全を期しておりますが、 これらの情報に基づき利用者自らが税務申告や各種手続きをされた場合の税務上その他 一切の法律上の責任は保障することはできません。ご了承ください。

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